4章4話

○ セーフハウス・外

柊が大通りまで小走りにやってきて、大通り近くで立ち止まる

柊   
「うーん。聞こえた気がしたんだけど……気のせいだったかな」

咲良が姿を現す

咲良  
「へえ。正直、あの魔法を聞き取るとは思ってなかったが」

柊   
「あんただったのか、黒いの。俺のこと、呼んだんだよな?」

咲良  
「まァな。『求めに応じろ』って言っただろ。
しっかし、『黒いの』ってのは、面白ェ言い方だな。たいていは狂犬って呼ばれるんだが」

柊   
「わかる。あんた、そんな感じ」

咲良  
「で? ――お前、何者だ?」

柊   
「どういうって?」

咲良  
「『時野柊』だったか? そんなウィザード、今朝までは存在しなかった。
メテウス機関のアイギスとも、立ち位置違うっぽいし。
正直、邪魔だからあの女から、手ェ引けよ」

柊   
「いやだ。ラビちゃんに近寄らないでもらえるかな。傷つけたら、俺が許さない」

咲良  
「ハン、大猫ってより、犬だな。忠犬」

柊   
「ユキヒョウだよ」

咲良  
「なんだってあの女にこだわるんだ?」

柊   
「……さあ。わからない」

咲良  
「アァ? わからねェだと?」

柊   
「俺は、記憶がないんだ。最初に会った時の戦いで、記憶を失っちゃったみたいで」

咲良  
「ハン?(うながす感じ)」

柊   
「だから、理由はわからない。でも、俺は確かに彼女を守る理由があるはずなんだ。
それだけは、わかってる。だから――守るよ、あの人を。何者からも……あんたからも」

咲良  
「上等じゃねぇか。邪魔する奴は、一緒に潰すぜ」

柊   
「やってみろよ。
その前に、俺がここであんたを潰すから」

咲良  
「魔法円の使い方もしらねぇヤツが、吹きやがる。戦いてぇっていうなら、やるか」

咲良が魔法円を出そうとする

咲良(咒文)
『魔法円(フィールド)起動。戦闘の場において(力なきものは去れ)』

※さえぎられる

六月(OFF)
「(警戒した声)時野さん、何、してるんですか」

柊   
「(振り返って)六月くん!?」

咲良  
「ちっ」

咲良、舌打ちをして去る(魔法で姿を見えなくさせる)
六月、やってくる

六月  
「今のは――」

柊   
「ドッグスの、黒い狂犬。あいつ、ほんと物騒だなぁ」

六月  
「『預言者』の排除を狙っているということですか」

柊   
「たぶん」

六月  
「うーん。うちの場所は魔法的に迷路の奥に入れてあるとはいえ、近所に現れたのは、まずいな。
今日ラビさんを送るところを物理的に尾行されると、きついです」

柊   
「魔法で隠せない?」

六月  
「魔法が発動していることで、逆にばれちゃうと思います。そうなると、ちょっと危険ですね。
今日ラビさんを、セーフハウスで保護しましょうか」

柊   
「えっ!?」

六月  
「え?」

柊   
「セーフハウスって、佐奈崎くんちだよね」

六月  
「俺の家っていうか、下宿的な……ああ、安全面なら大丈夫です。
セーフハウスは聖別されています。俺が許した人しか入れませんから」

柊   
「そうじゃなくて……つまり、男二人のところに、女の子泊めるってこと?」

六月  
「(気づいた)あっ」

柊   
「……(思案中)ラビちゃん本人に、聞いてみるしかないかな」

六月  
「……(ためらいつつ)内側から鍵の駆けられる部屋もありますし」

柊   
「……(逡巡して)……マッドドッグは遠慮しなさそうだし。
明日になれば状況も変わるかもしれないし……」

六月  
「そうですね。とにかく、戻りましょう。いつまでも女性を一人で待たせるのは失礼ですから」

柊   
「うん」

セーフハウスに戻っていくふたり。戻っていきながら

六月  
「無茶するのは、ダメですよ」

柊   
「次はひとこと言ってから行くようにするよ。ごめん」

六月(N)
「――明日になれば状況は変わるだろう、という俺たちの推測は、見事に裏切られることになる。
ドッグスは、本気だった。
本気で『預言者は排除すべき』という方針をとったのだ」