○ セーフハウス・脱衣所~台所
浴室で柊がシャワーを浴びている
脱衣所に六月が入ってくる。ドア越しに会話
六月(OFF)
「時野さん、着替え、置いときますね。
サイズは大丈夫だと思うんですけど」
柊
「あ、ありがとう」
六月(OFF)
「朝食作ってるので、着替えたらダイニングにお願いします」
柊
「はーい」
六月が着替えを置いて台所へ移動
冷蔵庫を開けながら
六月
「卵、ベーコン……野菜はあるし……パンでいいか」
調理し始める六月
パンをトースターにいれ、フライパンでオムレツを焼く
シャワーを浴びてきた柊が入ってくる
柊
「服、ありがとう。シャワー浴びてさっぱりした」
六月
「サイズ、大丈夫そうですね」
柊
「うん、ぴったり。これ、君の服じゃないよね? 魔法で出したの?」
六月
「いえ、知人におおむねのサイズ感伝えて、用意してもらいました。
魔法で服を作るのは効率悪いんですよ」
柊
「万能ってわけじゃないのかぁ。なるほどね」
六月
「持ってきてくれたのは、使い魔ですけどね。
さっきのカラスです。ファミリア便っていうんですよ」
柊
「そこは魔法なのか!」
六月
「普通の宅配は深夜に頼めませんし、急ぐと割高ですからね」
柊
「現実的な理由だった。魔法でぱっと転送できるかと思ってた」
六月
「転移魔法は、難しい魔法のひとつなんです」
オムレツを皿にのせている間に、トースターからパンが出てくる
六月
「できました、簡単なものですけど」
柊
「おお~、オムレツ! ありがとう、いただきます!」
テーブルについて食事をし始める2人
柊
「すっかりお世話になっちゃってるなぁ」
六月
「気にしないでください。部屋数はありますし。
あ、そういえばスマホとかは持ってないんですか?」
柊
「なかった。ケータイも財布も手帳とか、身元がわかるものなし。あ、でも、これは持ってた」
ジーンズのポケットから懐中時計を出す柊
六月
「懐中時計ですね」
柊
「なんか、俺が持ってるの変な感じしない? 似合わないっていうかさ」
六月
「え、あ、その……どうでしょう。
素敵な時計だと思いますよ。アンティークっぽくて……見せてもらっていいですか?」
柊
「いいよ」
柊、ジーンズからチェーンを外して懐中時計を渡す
六月、竜頭を押して開けようとするが開かない
六月
「ん、開かない」
柊
「あ、コツがあるみたい。龍頭を押す時、ちょっと内側に倒し気味にすると開くよ」
六月が言われたようにやってみるとぱかっと開く
六月
「ほんとだ。
開けるコツを知ってるってことは、やっぱり時野さんの時計なんでしょうね」
柊
「何か書いてないかなーと思ったけど、特に何もないんだよね」
六月
「……これ、魔法道具ですよ、たぶん」
柊
「えっ、魔法道具?」
六月
「ええ。この家の倉庫にあるアンティークと似た感じがあります」
柊
「倉庫があるんだ」
六月
「倉庫っていうか、蔵っていうか。お清め済んでないものをいれてあるんです。
これは――処置されていますね。簡単に発動しないよう、巧妙に隠されてるみたいだ。
キーワードか、時間なのか……わかりませんけど。
……お返しします」
六月が柊に懐中時計を返す
柊、受け取ってジーンズにチェーンをかける
柊
「そんなのを持ってるなんて、俺、やっぱり本当に魔法使いなのかな」
六月
「ただし、ウィザードではない可能性が高いですね。
ウィザードになる魔法使いは登録する必要があるんですけど、時野さんの登録は、ありませんでした。
ウィザードではない魔法使いだと、調査に時間がかかりそうですけど、転移魔法が使えるなら、だいぶしぼれる」
柊
「そうなんだ……。わざわざ、ありがとう」
六月
「服を取り寄せるついでがありましたから。俺の服じゃ、サイズ合わないでしょう」
柊
「……佐奈崎くんさあ、きみ、本当に高校生? 有能過ぎない?」
六月
「そんなことありませんよ。ただの高校生です」
鋭いアラート音が鳴り響く。
六月
「……!」
柊
「なに、この音……六月くんのスマホ!?」
六月がスマホ(デバイス)を出すと、画面にWARNINGが表示されている
六月
「(息を呑む)ワーニング!? まさか……こんなに早く」
柊
「それ、ラビちゃんのアラート!?」
六月、立ち上がる
六月
「行きます!」
六月、部屋を飛び出す
柊
「俺も行く!」
柊も部屋を飛び出していく