1章4話

○ 神楽坂・住宅街・結界内
咲良  
「どけよ。その女はナイトメアを呼ぶ。敵だ。敵は、殺す」

六月  
「どきません。あなたの言っていることは無茶苦茶だ。この人は敵じゃない」

咲良  
「(にやりと不敵に笑い)てめぇ、一緒に潰してやってもいいんだぜ」

六月  
「(真剣)暴力以外に選択肢はないんですか!」

咲良  
「ナイトメア相手にオハナシアイ? バカじゃねぇの。(不快さを表明)おら、どけ!」

トンファーで殴り掛かる咲良

六月  
「どかないと言っているでしょう!」

六月がトンファーを盾ではじく。双方の魔法もはじける

咲良  
「(一歩引いて)──かてぇな。威嚇じゃびくともしねぇってか。なら、本気で行くぜ(かまえて)」

六月  
「引いてください! こっちにはウィザード同士で戦う意思はない!」

咲良  
「(鼻で笑う)ハン」

トンファーで再度攻撃する咲良

六月  
「くっ」

六月は攻撃を受け止める

咲良  
「マジでやる気ねぇな。そのくせ防御だけはバカみてぇに固い、か」

倒れていた柊が意識を取り戻す

柊   
「う……なんだ……? さっきのバケモノは、もう消えたのか?」

咲良  
「……ちっ。気づきやがったか。もう少し気絶してりゃよかったのに。二対一じゃ、分がわりぃか」

咲良、装着していたトンファーを魔法でしまう(しゅんっと)
※戦闘モード解除

咲良  
「噂ってのはあてになんねぇな。お前、メテウス機関の『アイギス』だろ、その妙なコス。
一級ウィザードだって聞いてたが、とんだ甘ちゃんじゃねぇか」

六月  
「失敬な。これは由緒正しい暁光(ぎょうこう)騎士団の正装です。
それに、確かに噂はあてにならない。あなたは話よりも好戦的ですね、ドッグスの『マッドドッグ』。
……引いてもらえますか」

咲良  
「(にやり)今はな」

六月  
「──え……本当に?」

咲良  
「てめぇが言いだしたのにこっちが乗ったら驚くとかなァ。戦ったほうがいいってのかよ」

六月  
「ああ、いえ、そういうわけでは」

咲良  
「狂犬でも時節くらい見る。じゃあな、女。また会おうぜ(・・・・・・)」

咲良は歩いて立ち去る

柊   
「いま、何が起きてたの?」

六月  
「(返答しあぐねて、気を取り直す)もう、大丈夫です。おふたりとも、無事でよかった」

六月  
「すみません、驚かせましたね。いま、いろいろ整えますから」

六月、魔法で戦闘解除、結界も解除する

柊   
「それ、高校の制服?」

六月  
「はい。近くにある、神楽高校ってとこに通ってます。佐奈崎といいます」

六月  
「(ヒロインを遮る)あ、名前は今は、まだ言わないでください。誰が、どう聞いているかわからないので」

六月  
「自分から名乗る、というのは、エーテルの定義づけと同じです。
魔法使いに名前とエーテルをセットで把握されたら、ファイアーウォールを持たない限り、防御できません」

柊   
「なにそれ。特定されて、やばいってこと?」

六月  
「そうです。
(苦笑して)だから、時野さんがフィールドの中でで名乗った時、びっくりしたんですよ。
でも、この人は覚醒前で――『ラビット』だと思うので」

柊   
「『ラビット』? なにそれ。……ん、その前に。その『ときの』って、俺のこと?」

六月  
「えっ、そうですよね、ご自分でそう自己紹介されましたよね。時野柊って」

柊   
「うーん。時野柊……実感ないな……」

六月  
「その――どういうことですか?」

柊   
「実は、なんだかさっきの戦闘? で、俺、自分のことよくわからなくなって。記憶喪失なんじゃないかと思うんだけど」

六月  
「ええ!? ……そんなあっさりと言われても……」

柊   
「あはは、困るよね。
──ちょっと、そこの公園で、顔洗ってくるよ。さっぱりしたら思い出すかもしれないから」

柊、ぱっと走り出す

六月  
「……思い出してもらったほうがいいですね。ずいぶんいろいろご存じのようでしたし」